彼氏が入院した話1 ~彼氏のソーシャルな部分と向き合う

ゲイカップルのジレンマ

彼氏は昨年の正月から、たびたび体調を崩して入院していました。退院のたびに自分の家族に報告していたようですが、今回の入院はいつものようにはいかなかったのです。

救急搬送の連絡

俺は急性期機能の医療機関で働いています。部署を言うと特定される可能性があるので伏せますが、三次救急のそれなりに大きな病院です。

昼休みに職員食堂でのんびりしていると、私用のスマホが鳴りました。相手は勤務先の救命病棟の看護師長で、「〇〇さんのご家族ですか?」と彼氏の名前を口にしました。状況がわからず困惑する俺に、「あの、もしかしてうちの病院のあつしくん?」と尋ねられ、「今搬送された患者さん、あなたの家で救急車を呼んだみたいなの。到着したら意識がなくて」と告げられ、今度は動揺することになりました。

集中治療室までの道中、何を考えていたか思い出せません。記憶の中では電話の後すぐにICUの扉の前にいて、入るのを逡巡している場面が現れます。それは、彼氏の病態と、それ以上に彼氏の「ソーシャルな部分」との対峙が目の前に迫っていて、そのどちらも俺は怖くてたまらなかったからです。

搬送の経緯を知る

意を決してICUに入ると、病棟看護師長が気づいて近寄ってきました。彼氏はまだ初療中で会うことはできませんでした。

彼氏の疾患は詳しく記載しませんが、家にいるときに急変し、救急要請したものの、救急隊が入るときにはかなり意識混濁していて玄関を開けられず、マンションの管理人が立会って開鍵され、搬送となったようでした。そしてそのとき、名前を聞かれて自分の名前を伝えたものの、そのまま意識消失。そのマンションは俺名義の俺だけが住まうマンションとなっていたため、名前が違うことに気づいた管理人が、名義主である俺の名前と連絡先を救急隊に伝えていたようでした。彼氏の持ち物は彼のスマホだけでした。

状況を把握した後、彼氏の処置を終了して救急医が戻ってきました。「家族の連絡先分かった? まだ意識はっきりしてないわ」という発言からは、どんな状態かすらわかりません。彼氏のスマホのパスワードを、実は俺は知っていて、すぐにロック画面を解除することができました。俺は職場ではカミングアウトしていませんし、彼女がいる設定にしています。病棟看護師長はなんとなく気づいた様子でしたが、それ以上の私的な追及はなく、とにかく彼氏の家族に連絡しなくてはならないという流れになりました。

そこで問題があります。彼氏の家族は、俺という存在を知らなかったのです。

彼氏の治療方針の決定の場に俺は入れない

ロック解除したスマホのアドレス一覧から、彼氏の父親と思われる番号へ病棟看護師長が電話を掛けました。彼の母親は他界しており、実家の父親と、嫁いで別居している妹がいることは知っていました。関係性は良好で、正月やお盆によく実家に帰っていました。他県に住む父親と妹夫婦が駆けつけた時はすでに夕方で、医師と受持ち看護師が病状説明を行いました。幸い意識が少しずつ戻ってきたものの、治療方針を意思決定できる状況ではなく、急変時の対応を含めて父親が代理意思決定をすることとなりました。

小康状態を保っているものの、急変する可能性もあることから、心停止時の蘇生行為として心臓マッサージや人工呼吸器への装着の意思確認がなされました。実は彼氏は急変時はDNRの意向でしたが、救命病棟という特殊性、また彼氏の父親はCPRフルコースを選択したことから、自発呼吸困難となった際は挿管の上で人工呼吸器装着の方針となりました。CPRフルコースであろうがDNARであろうが、意思決定者もしくは代理意思決定者の意向は尊重されるべきです。ただ、彼氏は明確にDNARを選択していたことを知っていたにもかかわらず、それを代弁することができませんでした。

そして、毎日そばにいて、彼氏の意思決定を常に間近で見てきた俺は病状説明の場にすら入ることができず、こっそり電子カルテの記録を見て知るしかなかったのです。もちろんアクセスログが残るため、カルテ開示になった際は俺がカルテを見ていたことは家族の知るところになります。

そして、一緒に住んでいることを伝えた

そしてその夜、彼氏の父親と妹は、彼氏の家に行くためにマンションの管理人に電話を掛けました。当然、名義は俺なので鍵を開けてはくれません。パニックになっている彼氏の父親と妹に対して、いよいよ俺はどこまで話すべきか迷いながら、心配してくれた病棟看護師長の付き添いの中で、話をしました。

「〇〇くんが倒れた家は、俺の家です。彼が言わずにいたことを俺から言っていいのかわかりませんが、一緒に住んでいました。だからマンションの名義は俺の名前になっているので、管理人さんはそう言ったんです。健康保険証や生命保険など、必要なものは俺が持っていきます。よければ泊っていただいてもかまいません」、と。。。

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