早く彼氏の電子カルテを確認したい、その思いだけを胸に運転していると、知らない番号から電話の着信がありました。路肩に駐車し、通話ボタンを押して名前を伝えると、低い男性の声でした。
彼氏の父親が、病状説明の場に呼んでくれた
「○○(彼氏)の父です。昨日は突然のことで動揺しましたが、まずお話して良いですか」
彼氏に似た声音で、穏やかな口調でした。俺は連絡をくださったことに感謝しました。
「実は今、病院から説明したいことがあると言われたんです。朝早いからどうかなと思ったけど、君にも一緒に話を聞いてもらいたくて」
願ってもないことでしたが、真意が図りかねました。俺は「ありがとうございます」と伝え、次いで「でも、どうしてですか」と尋ねました。
「昨日、急変時の蘇生行為について、気が動転していたので全てしてほしいと頼みましたが、息子の気持ちがわからなかったんです。君なら、話をしていたのではないかと思って、教えてほしくて……。一緒に考えてくれませんか」
彼の父親は、ゆっくり、丁寧に接してくれました。俺は感謝しながら、簡潔に蘇生行為がどのようなものか、そして彼氏がそれらを望んでいなかったことを説明しました。また電話でわからない部分はお会いして、医師からの説明も合わせて説明できることも伝えました。
そして、病状説明の場へ
朝早い病棟は、看護師たちが勤務交代に向けて慌ただしく、俺は邪魔にならないようにそっと電子カルテが見れるパソコンの前に座りました。
病棟マップには、まだ彼氏の名前がありました。はやる気持ちを抑えながら、他の看護師がログインしている状態で、彼氏のカルテを開きました。
アクシスを開いて、彼氏のバイタル、治療指示、看護指示を確認しました。血圧も体温も変わらず、安定していました。看護師のSOAP記録を流し読むと、意識も混濁しながらも従命指示は通る様子で、ホッとしました。
医師記録からは電解質補正をしながら抗生物質の投与が記載されており、敗血症の症状を呈していることがわかりました。原因が気になりましたが、あまり長居もできません。
病棟師長が声をかけてくれました。「彼の父親が、あなたの同席を希望しているの」。俺は父親から直接電話があったことを伝え、自分の部署に戻って病状説明の時間を待つことにしました。
妹は「ゲイの病気ではないか」と尋ねた
時間だけが過ぎていく感覚の中、PHSが鳴りました。病状説明の呼び出しです。病棟にはすでに彼氏の父親と妹が来院しており、俺に気づいた父親が軽く会釈をしてくれました。
「ご来院くださってありがとうございます」と言った俺に、妹は深いため息をつきました。俺にはその意味がわかりません。すぐに医師と病棟看護師がやってきて、病状説明が始まりました。
搬送経緯から始まり、全身状態と検査結果から得られた所見、また今後の予測が説明されました。難しい言葉は避けた説明でわかりやすかったのですが、原因が不明でした。
小さく妹が手を上げて、「それって、ゲイの人がかかる病気なんですか?」と医師に尋ね、俺を冷たい目で見ました。
救命病棟のカンファレンスルームは独特の寒さがありますが、俺は凍りつく思いでいました。妹は俺を諸悪の根源と思っているのではないか、と感じました。
父親は「やめないか」と妹をたしなめましたが、腹の中まではわかりません。もしかしたら俺を責めるために同席を求めたのか?だとすれば酷すぎる……
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